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サーミスタの選び方、使い方、不良モード、用途、応用製品

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サーミスタの使用上の注意事項

サーミスタが使われるのは多くの場合温度の計測と制御が目的である。この目的を十分に果たさせるには,常に目的を明確に意識して対応しなければならない。今まで述べた立場と観点を変えて,以下では主としてサーミスタを使う立場からみた使用上の注意事項について説明する。

 

保護管、リード線の熱伝導による誤差に注意

温度の正しいデー夕を求め,科学の研究に用いたり,プロセスでの状態を正確に把捉し,改善か検討するような場合の精度の計測では,できるだけ精度高く,その温度の絶対測定をする必要がある,一方,作業の現場では,ある場所では温度の絶対値が必要なことがあり,また,別のある場所では絶対値よりむしろ変化をみるために相対値がわかればその程度でよいということもある。 したがって一概にこうでなければいけないと決め付ける訳にはゆかないことに留意して,以下のことを見てもらいたい。

挿入長の観点から

保護管使用の有無にかかわらず,温度センサを使用するときには,被測温物体の温度と雰囲気の温度の差,被測温物体の比熱,被測温物が気体や液体である場合には静止しているのか、あるいは流れているのか,流れているとすれば流速がどの程度かなどなど,多くの情報が欲しい。

それほどにこの問題は多くの外的条件に影響される。それに加えて保護管を使用するとその材質,構造,寸法が問題となる。それらによって温度センサを被測温物の中にどの程度挿入
べきかが決まるからである。

サーミスタ温度センサの場合によく使われるステンレススチールは,熱伝導率が低いが,そのステンレススチールの保護管を使った場合でも,水槽中で水温を測定するとき,保護管外径の20~25倍の深さまで挿入しないと正確な測定ができないといわれている。

 

この場合,リード線として使われている銅線やジュメット(dumet)線を通しての熱伝導があるので,保護管の材質だけで判断はできないが,熱伝導率がよい材質の保護管の場合にはさらに長い挿入長が必要になるだろう。熱伝導の影響の程度は断面積に支配されるから管の肉厚が厚いときには深く挿入しなければならない。

以上のような点を考慮すると,大きなニップルが付いた長さが短い保護管の中にサーミスタを組み込んだようなものでは,温度の正しい測定ができないことは明らかであり,温度の相対的変化をとらえるような用途に限ってしか使うことができない。

表面温度測定時の熱伝導による誤差を小さくする観点から

表面に固定して表面温度を検知するサーミスタ温度センサ(芝浦電子のF型サーミスタのような)で表面温度を測定あるいは制御しようとしうとき,たとえば,物体の温度が高いときには,使われているリード線の心線の材質が銅だから,熱伝導がよく,サーミスタの部分で集めた熱は銅線を伝って周辺の低温部に向かって逃げてゆき,サーミスタの部分の温度が低くなる傾向がある。

1)の場合はサーミスタの挿入長を長くして熱伝導による誤差を小さくしたが,2)の表面温度測定において熱伝導による誤差を小さくするには,いつでもそのようにできるとは限らない。 リード線をできるだけ測温場所の温度に近い温度のところに長くはわせて取り付け,リード線とサーミスタの間に温度差がないようにして,サーミスタが正しい温度を検知できるようにするとよい。

サーミスタを低い温度で使うとき

 リード線の硬さという観点から

被測温(制御)対象の温度が低温であるときには,リード線も低温になる部分があると考えられるので,リード線には耐寒コード(耐寒PVCコードやブチルゴムコードなど)を使用すべきである。また,低温ではリード線が硬くなっているので,振動を与えたり,動かしたりしないように取り扱いに注意する。

呼吸作用の影響という観点から

サーミスタが組み込まれている部分が,高温(室温程度)と低温との間で大きな温度変化を繰り返しながら長い時間使われると,保護管内部の空隙,リード線の撚り線の隙間の空間が膨張・収縮を繰り返しながら外部の湿った空気を少しずつ吸い込み,低温になったときには結露するということを繰り返すため,次第に内部に水分を取り込んでゆく。

このようにしてサーミスタの周辺が濡れてゆく結果,サーミスタのリード線間および(あるいは)リード線と保護管との間に絶縁不良を生じる。

このように,呼吸作用は
サーミスタにとっては大敵であり,避けなければならないので,このようなときには次のような点に配慮すべきである。

① リード線には単芯のものを使用し,撚り線の使用は避ける。撚り線を使うと線の間のわずかな隙間を通って呼吸作用が行われる。
② 組み立てに使用する材料を検討し,お互いの密着性がよく,温度変化を繰り返しても隙間を生じないものを選ぶ。
③ 保護管内部などに空隙を残さないよう完全に充填する。
④ できれば交流電源で使用する。

 

熱起電力の観点から

熱起電力は異種金属を接触させ,両者の間に温度傾斜があるときに発生する起電力で,ゼーベック効果と呼ばれている。センサとして組み立てるとき,接続される双方の線が同質のものであれば問題ないが,材質の異なる線と線をつなぐときには,つなぎ方に注意する必要がある。下表は銅線と他の金属の線をお互いに100°の温度差を与えて接続したときの熱起電力である。熱起電力の観点から,サーミスタの加工に際しては以下のような注意が必要である。

各種金属の起電力

各種金属の起電力

 

 

 

 

 

 

a)サーミスタ素子のリード線と外部のケ-ブルを接続するとき,それぞれの接合点の温度に差を生じないように注意する。外部のケ-ブルを接続したのも保護管に挿入する場合には,保護管の長さ方向に対して温度勾配を生ずることが多いので特に注意が必要である。

b)ジュメット線(dumet wire)はガラス中を貫通してリード線を引き出すのに使用するため鉛ガラスに熱膨張率を合わせて,アメリカのGE社で開発された線である。芯には鉄とニッケルの合金が使われ、そのためにジュメット線は磁石に付く,その上に銅を被せ,その表面にガラスとの封着性をあげるためほう砂を焼き付けてある。

以上のようなジュメット線を接続するとき,ジュメット線表面の銅の部分を残して(鉄一ニッケルの線がむき出しにならないよう注意して)接続するのが無難である。使用目的によってステンレス線その他の,銅以外の線を接続するとき,2本のリード線の接続点の間に温度差が生じないよう注意する。

c)サーミスタのセンサ部以外の場所,たとえば端子部分のような接続部などについても,その場所の温度が高く,場所によって温度差が大きいときには特に注意が必要である。 2本のリード線のおのおのは同じ材質とし, 端子の材質も2個が同質であるべきである。

サーミスタが温度センサとして使われるとき,ブリッジ回路やその他の回路が使われるにしろ,最終的にはサーミスタの端子電圧が温度の信号として使われる。 したがって,センサ部の2本のリード線間に熱起電力差があると温度の信号にその分の誤差が含まれることになり,測定の誤差となるため,熱起電力に対する注意が必要となる。

 

耐食性,防食の観点から

金属の腐食問題はすべて電気化学の問題であり,この立場から考えなければならない。金属の腐食には気相の酸素が関与して高温で進行する乾食と,室温付近で酸素と水の存在下で進行する湿食とに大別される。

両反応とも相の境界を荷電粒子が移行する電気化学反応であるが,乾食の場合には反応生成物が表面皮膜として蓄積する場合が多い。 これに対して湿食の場合には反応生成物がそのまま残る皮膜蓄積型に加えて,反応生成物が溶媒和イオンとして表面から失われるという特徴がある。自然環境下ではこれらの多様な組み合わせとして腐食が生ずる。

一般に金属はその種類によって水溶液中で陽イオン(十イオン)になるなり易さに違いがあり,その傾向はイオン化傾向と呼ばれる。イオン化傾向の大きい順に左から右に並べたものをイオン化列といい表のようになる。

イオン化列表

イオン化列表

 

 

 

 

 

いま,2種の金属を問題にしたとき,イオン化列の左にある方を卑,右にある方を貴な金属という。表のイオン化列で左にある金属ほど電子を遊離する傾向,すなわちイオン化傾向が強く,列の右の方にある金属ほどイオン化傾向か弱い。列の右側にある金属が溶けている水溶液に,列の左の方にある金属を浸すと,右側の金属のイオンが電荷を失って金属として析出し,左の方の金属がイオンとなって溶け出す。

金属ではない水素(H)のイオンであるH+を含む水溶液,すなわち酸の中に金属を浸すと,表の金属のイオン化列で(H)より左にある金属では水素を析出し,金属が溶けてイオンになる。すなわち腐食が起こる。(H)より右側の金属ではこのような現象は起きない。たとえば鉄が塩酸に溶ける反応は
Fe+2 HCI→FeCh十H2
である。

もう1つ,腐食と関係が深いのが溶存酸素(水の中に溶けている酸素)である。十分に空気にさらされた水の中には1気圧の空気が飽和して,酸素濃度が8~10ppmとなっている(魚がえらで呼吸しているのはこの酸素である)。酸素はマイナスの極でつぎのように反応して鉄が錆びて酸化鉄となる。

腐食を考えるとき,もう1つ見落とせないのが異種金属接触腐食である。金属は湿性の環境
中である電位を示す。この電位は同じ環境中では金属の種類によって異なった値を示す。このことから,いま,たとえばA, B 2種類の金属を接触させて3%の食塩水につけたとすると,一方の金属の電位が他方の金属の電位より高くなるという現象が生じる。

このため,下図に示すように金属A,Bと食塩水とで一種の電池が構成され,金属中ではA→Bの方向に電流が流れ,Bからは食塩水中をイオン電流としてAの方に流れる。

このように電流の閉路が構成される結果,電流が流れ出る側の金属Bが腐食する、このようになったとき,金属Aの方を貴,Bの方を卑であるという。

異種金属接触腐食

異種金属接触腐食

 

 

 

 

 

 

 

サーミスタは水に関係する場所で使われることが多いまた,取り付けられる場所の金属と保護管の材料の金属との種類が違うこともしばしば起きる可能性があり,腐食をさけるために特に注意すべき事柄である。

 応答性の観点から

応答については「サーミスタの熱時定数」のところで説明したがサーミスタだけを他のものから熱的な影響を受けないようにして測定した値であることが多く,実際の使用状態では他の要因から相当異なる値を示す場合が多い。保護管からのサーミスタの浮きが抵抗の測定値や応答に影響を与えることについては前に触れたが,正しく組み立てられたサーミスタの場合でもa)取り付けられた状態,すなわち,取り付けられた場所が非常に熱容量が大きいところで,しかも絶えずその温度が変化しているようなときにはサーミスタのフランジある卜はニップルの温度がその影響で絶えず変化し,保護管が短かければサーミスタが検知する温度に影響するから,測温対象の温度が余り変化しないときに乱サーミスタが検知する温度は絶えず変化する。

 

b)測定する対象の熱伝導率,熱容量,流れの状態などによって応答はさまざまに変化する。熱伝導率が大きいものでは応答が速くなる傾向があり、熱容量が大きい対象の測定では相手の熱的変化が遅いのでサーミスタの温度もゆっくり変化しているように見える。応答は対象物の状態で変化する。

c)応答性が悪い温度センサを変化が激しい制御対象に使用すると,センサが現在温度を正しく検知しないので,制御結果は非常に悪い状態となる。

d)応答性という観点から温度センサを考えるとき,対象をできるだけ一定温度に保持するためには,センサが制御対象の変化に直ちに応答して現在温度を正しく判断する必要があるから,できるだけセンサの応答がよいものを使用するべきである。

e)測定対象の温度がある割合で連続して変化し続けている場合には,センサーが検知する温度はセンサの時定数τの遅れで追従する。

 

サーミスタの保護管の防食のための対策

「耐食性,防食の観点から」で,腐食の原因について簡単ではあるが若干の説明を行った。ここではさらに防食のためにどのような対策があるかについて述べる。

腐食しにくくするためにはいろいろの方法が考えられるけれどもどの方法も完全なものとばいえないようである。

第1に考えられる方法は,金属の表面を被覆して環境物質を金属から遮断する方法である。塗料を塗る,あるいはめっきをするなどがこれに当たる。

第2の方法は環境で腐食しにくい耐食性の優れた金属材料を選ぶことである。このようなものは一般に高価であり,最もすぐれているのは金である。

第3の方法として考えられるのは,環境処理である。化学薬品などを環境に加えて腐食を抑制するもので,このような化学薬品を防食剤という。

第4の方法は,人為的に外部から電流を流して腐食を防止する方法である。
水が存在するときに起こる湿食の多くは電池作用によるものである。その外部電流を十分に大きくして腐食電流に打ち勝ち,全体として電流が流れ込んでいる状態にしておけば腐食は停止する。これを陰極防食法またはカソード防食法という。逆に金属から人為的に電流を環境に流出させて不動態化を図るアノード防食法もあるが,カソード防食の方が一般的である。

第5は水中で異種金属をお互いに接触させず分離することである、異種金属が接触していると電池作用を起こすから,金属Aと金属Bを絶縁材を介して分離し,A→Bのように流れる電流を遮断する、しかし,長期的には絶縁材の部分に次第にいろいろのものが沈着して絶縁が悪くなり,少しずつ電流が流れるようになる可能性がある。このように金属間を分離しても金属が液中にあるかぎり,腐食が起こる可能性が残るので,第1,第2などの方法を用いればより効果がある。

以上のほか,腐食の形態には孔食や粒界腐食などなど多くの問題があり,保護管の表面に傷をつけないこと,溶接時高温になった保護管の冷却速度に配慮するなどの注意が必要である。

 

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