サーミスタの用途 温度計等
現在,実に多くのサーミスタが使われていて,温度の制御,警報,温度補償,計測と広い分野でその機能を果たしている。
用途が次第に精密な機器へと変わるにしたがって,従来は計測用と呼ばれていたガラス封入タイプが主力となる反面,回路の小型化,IC化の進展とともに,最近では表面実装用のリード線がないチップサーミスタの需要も増えている。
温度センサとして,温度の測定,制御,警報を目的として使われている。民生用,産業用,研究・開発・検査用に分類して整理すると概略つぎのようになる。
民生用:温度センサーとしての用途
主として家庭生活と密接に関係する分野であり,目的別に分類すると調理機用,空調・冷暖房用,健康・美容機器用およびその他の家電用と4つに分けられる。それぞれについて主な用途を示すとつぎのようになる。
調理機器用 電子レンジ,トースター,オーブンレンジ,スチームオーブンレンジ
庫内温度の制御を目的別たとえば単なる加熱や発酵温度を制御したりその温度を表示する目的で使用する。炊飯器用ではセンサを鍋の底に密着させて使用し,予熱,炊飯,保温の管理に使用される。炊飯では米が炊けて遊離した水が無くなったときの温度上昇を検知して炊き上がりを判断する。
電磁調理器ではセラミックスの板の裏に取り付けられて,上にのせられている鍋の温度を間接に検知して加熱を制御し,ホットプレートでは鉄板の裏にセンサを取り付けて鉄板の温度を検知し,加熱を制御している。ジャーポット用としてはサーミスタを保護管に組み込むなどしてポットの壁面あるいは底面に取り付け,湯温の上限の制御や保温の管理に使われる。
コーヒーメーカーにおいても温度管理という点では同じである。家庭用製パン器では材料を計量してセットするだけで,マイコンを応用して材料の捏ね合わせ、発酵,ベーキングなどすべてが順序よく行われるが,各工程でのそれぞれ異なる温度に対応して温度を検知しマイコンに温度の信号を送っているのはサーミスタである。
空調・冷暖房用: 石油ファンピーク用,ルームクーラ用,エアコン用
老人ホームなどでは火気の危険を避けて床の全面を心地よく暖める床暖房を建築のときに施工することがあるが,この場合にもサーミスタを埋め込んで温度を制御する。
健康・美容器用 :電子体温計(サーミスタ温度計)
この部門でもっとも数が多いのが電子体温計(サーミスタ温度計)である。
体温計の工場での水銀による中毒の危険を避けるなどの目的も含めて,サーミスタとマイコンの組み合わせで作り出されたのが電子体温計である。短時間で体温を測定できる予測式というタイプでは,予測の確度が問題になっているが,予測によらない実測式のものや,予測式でも時間をかけて実測式として使用したときにはよい精度が得られる。
いま,多くの家庭で使われるようになった温水洗浄便座や暖房便座でも温度の制御用としてサーミスタが使われており,温水洗浄便座の場合には,便座用,洗浄温水用,風温制御用と3個のサーミスタが使われるものもあり,最低でも2個使用される。風呂の湯温の表示や警報用として,また湯水混合装置での温度検出用として,ヘアカーラー,ヘアドライヤー,パーマネント装置のドライヤーの温度制御用などとして,温度制御のためにサーミスタが組み込まれ
ている。
その他の家庭電化機器用 冷蔵庫、ソーラーシステム
家庭用の深夜電力による給湯機,灯油を燃料とする給湯機,瞬間湯沸器などの湯温の制御や表示を目的としてもサーミスタが利用される。また衣類乾燥器,食器洗浄乾燥器などの温風の温度制御用,業務用などのやや大きいアイロンの温度制御用センサとしての用途もある。
OA機器用
PPC複写機(一般に電子コピー機と呼ばれることが多い)
他各種熱ペンを利用したプリンタにおいてもプリンタヘッドの温度制御の目的でサーミスタが利用されている。
自動車用:温度センサーとしての用途
近年、カーエレクトロニクスと言われている色々な電子装置に組み込まれ、その中に多くのサーミスタがセンサとして使用されている。例えば自動車用水温計、カーエアコンのための温度センサとして使用されている。
最近では自動車の電子化が進み電子噴射制御(会社によって呼び名が異なり, EFI, EGIなどさまざまである)装置が多くの車に搭載されている。
これは空燃比を最も適当な状態に自動的に制御することによって排気をできるだけクリーンな状態に維持しながら,できるだけ大きい力を引き出し燃費を改善するのに役立つ、吸い込む空気の流速は熱線で検知することが多いようだが,吸い込む空気の密度が温度によって変化するため,その補正の目的で吸気温度を計測するのにサーミスタが使われている。
産業用 温度センサーとしての用途
民生用ではサーミスタが特長を発揮して使用できる温度とよく合致するので数が非常に多かったが,産業用温度センサの分野では白金測温抵抗体や熱電対が主力であり,サーミスタが利用される場所は余り多くはないが,どちらかといえば常温に近い分野を中心に利用されている。
たとえば,コンクリート打設時の天端のレベル検知には,コンクリート固化時の発熱による温度上昇を利用して,ビルの基礎工事などだけでなく,海中の巨大な橋脚の工事などの場合にもコンクリート打設上面の検知にサーミスタ温度センサが利用される。
農・畜産業用 温度センサーとしての用途
この分野での主力は農業であり,中でもハウス農業における応用が多い。現在の農業は季節感が無くなったといわれるように,いろいろの野菜が季節に関係なくいつでも豊かに供給されている。これにはハウスの利用が進み,各種の装置を利用して温室内の微気象の制御が容易になったことが大きく寄与している。
ハウス内では各種の温度センサが多数使われるが,サーミスタも重要なセンサの1つであり,気温,地温,水温などを管理している。
水稲関係で見ると水田での田植えに機械が導入されるようになって,以前のように苗代で発芽させた苗を使わず,温度制御された催芽器で発芽された苗を使うようになり,催芽器の温度センサとしてサーミスタが多量に使われるようになった。
収穫の秋となり稲が刈り取られると昔は自然乾燥に頼っていたが近年は農業従事者が高齢化したことも手伝って,乾燥機で強制乾燥させ農協のカントリーエレベータのサイロに入れて管理されるようになった。このとき,サイロの中の米が変質しないよう米の温度を監視するのにもサーミスタが使われている。
その他農業部門では,葉たばこの乾燥温度の管理,製茶作業での茶揉作業時の温度の管理のほか,茶畑で地表温度が放射冷却で異常に低くなり,新芽が傷む心配があるとき,地表10m付近の暖かい空気を地表に吹きつけて,新芽の冷害を防止する防霜扇の制御にサーミスタが活躍している。
畜産部門では養豚,養鶏〔ブロイラー養鶏〕での肥育室の床温,室温の管理に,また,人工孵卵器の温度制御といろいろの用途がある。
漁業用 温度センサーとしての用途
直接的には漁業用とはいえないかも知れないが,本土から南の島を往復している船舶に装置を設置して,毎日の航海の往復に海洋の水温を調査して暖流の位置を調査して,一般の漁船がデータを利用できるようにしたシステムが運用されている。魚はその温度によって種類が変わるので,この水温のデータは非常に重要である。
養殖漁業としての養鰻において水温を幾分高目に管理して成長を速めることも多く行われ,水温管理用としてサーミスタが用いられている。
海苔の乾燥はその品質を左右するといわれているが,乾燥工程での温度と湿度の管理にサーミスタが活躍している。
商業・サービス用その他 温度センサーとしての用途
各種の品物をパックするときのヒートシーラー装置の温度制御,自動販売機の温度制御,自動酒燗器の温度制御,業務用製氷器(キュビックアイス)の製氷温度,離脱温度の制御,冷凍ショーケースの庫内温度の管理用などとして,その温度管理のためサーミスタが使われる。
また,最近特に数が多いファーストフードの店の調理室では,調理や加熱の仕事が誰にでもできるようにマニュアル化されており,そのための温度管理用として多くのサーミスタが温度管理のために使われている。 その他,自動車の運転免許証などのように書類を保護するために使われるラミネートの装置の温度制御,写真の自動現像のためのオートラボシステムでの温度制御にもサーミスタが使われる。
医用・研究開発・試験用 温度センサーとしての用途
医療の現場で用いられるものとしては,重症患者の体温の状態を継続的に監視するための電子体温モニタの温度センサはサーミスタである。
その他血管に入れて体内深部の温度を調べるカテーテル温度センサにもサーミスタが使われる。また,輸血時,冷蔵されていた血液を体温まで加熱したり,点滴の液温を体温まで加熱したいときに使用する輸液ウォーマーには,温度センサとしてサーミスタが使われている。
携帯用電動鋸などを使って手に強い振動を長い期間受けたことが原因であるといわれている白ろう病患者の診断には,一定時開手を氷水の中に入れた後空中に出したときの指の温度の回復速度を測定する方法が用いられるが,このとき指の表面に固定して指の温度を検出するために,サーミスタが使われている。
このセンサは通常時において体の表面の温度を測定するのにも有効であるが,別に体表面温度測定用のサーミスタ温度センサも作られている。
その他,本当の体内温を知るための直腸用温度センサ,保育器の温度を管理するための温度センサにもサーミスタが使われる。
理化学研究用 温度センサーとしての用途
気象観測ゾンデ用サーミスタ:
毎日各地で時間を決めて気象観測ゾンデが飛ばされ,上空の気温,湿度,風向,風速が測定される、この目的のサーミスタは応答が速く,直射日光の影響を受けにくいものでなければならないが,温度センサとしてはサーミスタが使われている。上空から温度のデータは電波に乗
せられ地上局に送られてくる。
気象観測では,逆転層の観測でもサーミスタを使用することがある。通常は上空になるほど気温が低くなり,たとえば煙など温度が高い気体はどんどん高く昇ってゆくものである。 しかし,気温が逆転し上空の方が気温が高くなっていると,煙突の煙などはその逆転層のところで上昇できなくなり,横に棚引くようになる。このようなときには,公害物質を含んだ気体があると拡散しにくくなり,その下の地域に悪い影響を与えるおそれがあるので,必要に応じて逆転層の観測が行われる。
地下深部温度測定においてもしばしばサーミスタが使われる。これはサーミスタの温度係数が大きく,1 °Cの温度変化に対する抵抗の変化量が大きいので,地熱の変化によるケ-ブル抵抗の変化が温度の測定結果に大きい影響を与えないためであるが,圧力が非常に高くなるので材料の選択と加工技術が問題になる。
最近では人工衛星にもサーミスタが搭載され活躍している。
製薬業界では新薬を開発したとき,まず動物実験をするがそのとき用いられる装置がパイロジェソテスト装置である。試験に用いられる動物の直腸にパイロジェソテスト用のサーミスタを挿入して固定し,動物の体温を連続的に記録しながら,試験したい薬を投与したときの動物の体温の変化を調べるためである。このときに用いられる温度センサには,微妙な温度変化を捕らえることができるサーミスタを利用することが多い。
自己加熱したサーミスタ(ホットサーミスタ)の用途
サーミスタは,電流を流し,ジュール熱を利用してサーミスタ自体の温度を上げることによって,温度を媒介させて温度以外の測定に使用できる。湿度センサ,風速センサー、レベルセンサー等である。
レベルセンサ
気体中と液体中とでは熱放散に大きい差があり,液体中での熱放散は気体中の熱放散と比較するとはるかに大きい。そのため同じ電源に接続されている場合でも,サーミスタが気体中にあるときには温度が高く,液体中では温度が低くなる。このことを利用すればサーミスタが気体中にあるか,液体中にあるかを判別できるから,液体のレベルセンサとしてサーミスタを利
川することができる。
このことを利用して,パッケージエアコンのドレインの水位検知用,フロンガス回収装置のフロンのレベル検知用,自動車の冷却水のレベル検知用,自動車のエンジンオイルのレベル検知用,タンカー内の油のレベル検知用などとして利用されているが,テフロン中に埋めこんだセンサを使えば,酸性やアルカリ性の液体の場合でもレベル検知に使用できる。
以上のような用途のほか,気体の熱伝導の変化に起因するサーミスタの冷却の度合いの変化を利用して,ガス分析(たとえばガスクロマトグラフ装置の検知用センサやメタンガス濃度計のような)や真空計としての用途があり,また,最近では生化学の分野で菌の培養に使われる炭酸ガスインキュベータの炭酸ガス(C0²)の濃度検知のためのセンサとしての用途がある。
サーミスタの応用製品
最後にサーミスタが実際に使用されている製品について概要を説明します。
オーブン電子レンジ
電子レンジの自動化に絶対湿度センサが多数使用されている。
関連サイト電子レンジ・オーブンレンジの選び方、使い方、メンテ、修理 【図解】
冷凍冷蔵庫
冷蔵庫の庫内温度を食品別に分けて保存するタイプが増えてサーミスタもそれに伴い増加傾向。
関連サイト: 冷蔵庫の選び方、使い方、修理 【図解】
ルームエアコン
温度、湿度の制御をするエアコンにも色々なタイプのサーミスタが使用されています。
関連サイト: エアコン、空調機の正しい選び方、使い方、掃除、修理、リサイクル【図解】
石油ファンヒーター
室温検知用にサーミスタが使用されている。
関連サイト: 石油ファンヒーターの正しい選び方、使い方、メンテ、修理【図解】
給油機
給湯機の場合,沸騰させることは危険を伴うので,上限の温度は通常約80°C程度に設定され,その温度より若干高い温度に設定されている温度の過昇警報回路によって二重に安全を確保するようになっている。 したがってこの目的で2本のサーミスタが使われている。
自動車 車載用
車載用にも多くのサーミスタが使用されています。
*更に詳細にサーミスタについて知りたい方は下記の本が参考になります。
参考文献:
サーミスタの選び方・使い方 三浦 哲夫 (著)
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