指差呼称とは
指差呼称とは、危険予知 (KY/KYK) 活動の一環として、信号、標識、計器、作業対 象、安全確認などの目的で、指差を行い、その名称と状態を声に出して確認する ことである。
指差喚呼(しさかくにんかんこ)、指差称呼(しさしょうこ・ゆびさししょうこ)、 指差唱呼(しさしょうこ・ゆびさししょうこ)と同じ意味、一般的には「指さし 確認」で知られる。
指差呼称の歴史:
指差呼称の起源については、参考文献にある「機関車と共に」に出ており、明治 末年に神戸鉄道管理局でルール化された物である。明治末年、目が悪くなった機 関手:堀八十吉が、機関助手に何度も信号の確認をしていたのを、同乗した同局 の機関車課の上司の方が、堀機関手が目が悪いことに気がつかずに、素晴らしい ことであるとしてルール化したもので、「機関車乗務員教範」(神戸鉄道管理局 大正2年7月発行)に、指差呼称がでてくる。
戦前に日本の鉄道システムを学んだ韓国や台湾においても、指差呼称は実施され ており、日本の鉄道が生んだ安全確認システムは、海外にも導入されている。 指 差喚呼については、炭坑等危険と隣り合わせの職場から広まり、現代に受け継が れている。
指差呼称の必要性
1.人間特性
• 人間はもともと心理学的には,欠陥だらけの動物です。いろいろなエラー をするのは,むしろあたりまえ。
• その不完全な人間の心の特性を,できるだけ正しくとらえて,物の面や人の 面で,なんとかエラーをしないように,またエラーしても事故にならないよ うも与していくことが必要。
• ここでは,人間の心の働きのうち,不注意,錯覚,省略行為・近道反応とい う3つの人間特性から「指差呼称の必要性」を説明。
2.不注意
• 安全な作業をするためには,危険と不注意を結合させないようにすることが必要 で,そのため作業行動の要所要所で,指差呼称によって「意識レベルをギアチェ ンジ」してクリアに、ウッカリ・ボンヤリ・不注意を防ぐことが不可欠になって くるのです。
3.錯覚
• 人間はすべてのことをすべて正確に知覚し,正確に判断して行動すること はできません。正確に知覚しうる範囲には限界があり,しばしば感覚にひず みを起こして錯覚(錯敵)することが心理学の研究で明らかにされています。
• 「人間は当然錯誤する」ということを十分・に知ったうえで,安全を進め ていく必要があります。類似したバルブやスイッチなどを,勘違いしないよ うに物の面の対策を進めるのと同時に,指差呼称で「意識レベルをギアチェ ンジ」してクリアにし,はっきりと対象を確認して操作する必要があるので す。
4.省略行為・近道反応
• 人間はしばしばやらなければいけない手順を省略したり,禁止されている 近道を選んだりしがちです。決められた保黎具を着用しなかったり(省略行 為),材料・の上を歩いたり(近道反応)して,それが事故や災害の原因と なるのです。大丈夫だろうという憶測判断から,つい省略したり,近道した り,不安全な状態を放置したりします。
指差呼称の効果実験:
1994年、財団法人(現、公益財団法人)鉄道総合技術研究所により、効果実験が 行われました。同実験によれば、「指差しと呼称を、共に行わなかった」場合の操 作ボタンの押し間違いの発生率が2.38%であったのに対し、「呼称のみ行った」場 合の押し間違いの発生率は1.0%、「指差しだけ行った」場合の押し間違いの発生 率は0.75%でした。
一方、指差しと呼称を「共に行った場合」の押し間違いの発生率は0.38%となり、 指差しと呼称を「共に行った」場合の押し間違いの発生率は、「共に行わなかっ た」場合の発生率に比べ、約6分の1という結果でした。
指差呼称だけでヒューマンエラーの根絶を実現することはできませんが、上記の実 験、研究から、指差呼称は、「意識レベルを上げ、確認の精度を向上させる有効な 手段」であるといえます。
指差し呼称の有効性
故橋本邦衛(日大生産工学部教授)は、意識レベルには5段階あり、日常の定常作 業は、ほとんどレベルⅡ(正常でくつろいだ状態)で処理されるので、レベルⅡの 状態でもエラーしないような人間工学的な配慮をする必要があると同時に、非定常 業務のときは、自分でレベルⅢ(正常で明快な状態)に切り替える必要があり、そ のためには指差し呼称が有効であると言っています。(表 3-2-1)
指差呼称の実践
練習では、指差し呼称の基本形を次のとおり徹底して身につけます。
①目は・・・確認すべき対象を、しっかり見る。
②腕・指は・・・左手は親指が後ろになるようにして手のひらを腰にあてる。右腕 を伸ばし、右手人指し指で対象を差す。「○○」のあとで、いったん耳元まで振り 上げて、本当に良いかを考えて確かめた上で、「ヨシ!」で振り下ろす。右手は、 縦拳(親指を中指の上にかけ、握りの渦巻きを天井に向ける)から人差し指を伸ば す形をとる。
*左利きの人は、その逆で行う。
③口は・・・はっきりした声で、「○○ヨシ!」、「スイッチ・オンヨシ!」
「バルブ開 ヨシ!」などと唱える。
④耳は・・・自分の声を聞く。
〈行動の要所要所での確認法(基本型)〉
画像出典先:厚生労働省 安全衛生関係リーフレット
〈指差呼称の基本〉
(3)指差し呼称の正しい動作
① 意識をクリアーな状態にするため、動作には適度の緊張が必要です。きびきびと行うようにしま しょう。
② 「呼称」する内容は、注意力を集中させるため「温度 ヨシ!」ではなく、「温度○度 ヨシ!」
、「車椅子 車輪 ヨシ!」ではなく「車椅子 車輪固定 ヨシ!」というように、呼称内容は鋭く具体 的な表現を工夫します。
指差し呼称項目の決め方と確認対象
指差し呼称は行動の要所要所で行いますが、次のようなケースを参考に指差し呼称 の必要な箇所を選定します。
① これまで事故・災害や重大なミスがあった業務
② 手順を間違えた場合に重大な事故・災害に結び付きそうな業務
③ 業務が複雑あるいは、類似内容で間違いやすい業務
そして次にあげるようなものを確認の対象とします。
(イ)人の行動
(a)自分自身
①位置:(対象物との距離はよいか、周囲はよいか)
②姿勢:(頭・腕・足・腰などの位置はよいか)
③服装:(作業帽・作業服・ボタン・そで口など)
(b)共同作業者: 相手の位置、姿勢、服装、保護具、合図 など
(ロ)物の状態
(a)計 器 類
(b)操作機器
(c)治 工 具
(d)資材・製品などの置き方
(e)標 識
(f)保 護 具
(g)そ の 他
業種業態によって確認すべきポイント・項目 内容はさまざまです。
指差呼称の難しさ
恥ずかしい 照れくさい
どうやって恥ずかしさ,照れくささを乗り越えるか。
1.まず教育と訓練-とくにKYTと一体にトレーニングすること。
2.指差呼称項目設定,実践方法などについての職場でのホンネ の話し合いと,しぼりこみ。
3.上司の率先垂範。
4.全事業場(間接部門を含めて)での実施。
指差唱和の実践
指差唱和は、全員でスローガン等の対象を指差し、唱和して確認することにより、 気合を一致させ、チームの一体感・連帯感を高めることをねらいとした手法です。
一般に、朝礼・終礼時に「一人ひとりカケガエノナイひと ヨシ!」などのスロー ガンや、KYTの確認項目(第2ラウンド:危険のポイント、第4ラウンド:チー ム行動目標など)を確認しあったり、実行を誓い合う時などに用いられます。
タッチ・アンド・コールの実践
タッチ・アンド・コールは、指差し唱和の一種といえます。その特徴は、チーム全員 が手を重ね合わせたり、組み合わせたりして触れ合いながら行います。 全員でスキンシップを行うこのタッチ・アンド・コールはチームの一体感、連帯感を 高め、チームワークづくりに役立ちます。同時に、大脳の旧皮質(欲求や感情を司る脳) によいイメージを叩き込み(社会帰属性・・仲間でいたい、ルールを守ろう、ケガをし たくないなど)、無意識に安全行動をするように、ウッカリしたりボンヤリしたりしない ようにするのがねらいで、チーム活動のメリハリをつける時などに活用しましょう。
(1)タッチ・アンド・コールのやり方
指差し唱和と同様、リーダーの「~ ヨシ!」に続いて、全員で「~ ヨシ!」と 指差し唱和をします。
KYTの研修会で行っているタッチ・アンド・コールの型の例を以下に3種類示 します。です。チームの人数に応じて3種類を使い分ければよいでしょう。
You Tube参考:ビデオ:指差呼称の実践方法
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