既存の企業におけるイノベーションⅣ
既存の企業における起業精神
既存の企業こそ起業家的なリーダーシップの能力がある、それらの企業は必要な資源、とりわけ人材を持っている、既に事業をマネジメントしている。
したがって既存に企業こそ起業家的としての機会を持ち、その責任を担っている。規模の大きさはイノベーションの障害にはならない。
もっともイノベーションが欠けているのはむしろ小さな組織である。
障害は既存の事業
既存の企業が起業家としてイノベーションに成功するには特別の努力を必要とする。
既存の機御油はすで存在する事業、日常の危機、若干の収益増へとその生産資源を振り向けてしまいがちである。昨日を養い、明日を飢えさせる誘惑にかられる、それは死にいたる誘惑である。
イノベーションを行おうとしない企業は歳をとり、衰弱していく。
だからこそ、常時イノベーションに成功している既存の企業、時に起業家として成功している、大企業、中堅企業の例が重要な意味を持つ。
<ベストプラクティス・ベンチマーキングの実施
Best Practice bench
marking>
起業家精神の条件
起業家精神は生まれつきのものではない、創造でもない、それは仕事である。
正しい結論は通念と逆である。
ゆえに多くの大企業、中堅企業がイノベーションに成功している。
但し、そのためには学ぶことが必要である。
起業家精神に必要な四つの条件:
廃棄の制度化
イノベーションを行うにはイノベーションに挑戦できる最高の人材を自由にしなければならない。
同時に資金を投入できるようにしなければならない。いずれも、過去の成功や失敗を廃棄しないかぎり不可能である。
<PRDCAサークル >
PDCAサークルに廃棄 Rejection を追加.
診断の為の分析
製品、サービス、市場、流通チャンネル、工程、技術のライフサイクルがあることを前提として現状を把握、分析する。
但し、分析から得られるものは診断結果ですぎない。その診断にさえ判断が必要である、さらに事業、製品、市場、顧客、技術についての知識が必要である。加えて経験が必要である。
イノベーションの必要度の把握
第三の段階はイノベーションをどの領域でいつまでに行う必要があるのかを明らかにすることである。最初に製品、サービス、市場、流通チャネルを列挙しそれぞれがライフサイクルのどこに位置するかを分析する。あとどれくらい成長するか、いつ成熟しいつ衰退するか。
そして売上、市場シェア、収益性について現実に起こるであろう目標とのギャップを明らかにする。そのギャップはかならず埋めなければならない。埋めなければ企業は死に向かう。少なくとのこのギャップを埋めるだけの起業家的な成果が必要である。つまるところ、イノベーションには確実性はない。失敗する可能性は大きい。
したがって目標とするイノベーションに大きさは実際に必要とする規模の三倍以上にしなければならない。
起業家としての計画
第四の段階が起業家としての計画を立てることである。
実績のある人材を配置し必要な道具、資金、情報を与え明確な期限を設けてはじめて計画を立てたことになる。誰もが知っているようにそれまではよき意図と期待があるに過ぎない。
既存の企業が起業家となるためには自社に製品やサービスが競争相手によって陳腐化させられるを待たず、みずから進んで陳腐化させなければならない。
今日とは異なる明日をつくりだす製品、サービス、プロセス、技術にために今日仕事をしなければならない。
機会についての報告と会議
マネジネントの目を機会に集中させなければならない。
人は掲示されたものは見るが掲示されてないものは見逃す。しかるに今日、マネジメントに掲示されているのは期待外れの分野の問題ばかりである。
起業家的企業は二つの会議を開く、一つは問題に集中する会議であり、もうひとつは機会に集中する会議である。
<機会に集中する会議テーマ> <問題に集中する会議テーマ>
イノベーションの評価
既存企業が起業家的であるためにはみずからの業務評価にイノベーションについての結果についての評価を組み込まなければならない。
起業的な結果を評価してはじめて起業家的な行動はもたらせる。
大事なことは一つ一つのプロジェックトについて結果を期待にフィードバックすることである。
こうすることによってみずからの計画能力と実行能力の質と信頼性を知ることができる。
イノベーションの定期点検
イノベーションにかかわる活動を定期的に点検していく、起業家的であるためには数年ごとにみずからのイノベーションをまとめて評価しなければならない。
どのイノベーションに力を入れ推進していくか、逆にどのイノベーションが期待どうりに進んでいないか。撤退するか、期限付きでさらに努力するかを考えなければならない。
イノベーションの業務評価
イノベーションの成果全体をイノベーションにかかわる目標、市場における地位、企業全体の業績との関連において評価することである。
たとえば五年ごとに主な部門のすべての対してこの五年間わが社を変えるようないかなる貢献を行ったか、これからの五年間いかなる貢献を行うつもりか問わなければならない。
とはいえ、そもそもイノベーションの成果を定量化できるのか、いかにすれば定量化できるかという問題は残る。
必要なことは測定でなく判断である。判断といっても主観ではない。定量化できなくても良い。判断さえできれば主観でなく知識に基いた行動が可能になる。
起業家精神のための組織構造
イノベーションを行うのは人である。
人は組織の中で働く。
したがって既存の企業がイノベーションを行うにはそこに働く一人ひとりが起業家になれる組織構造が必要である。
起業家中心に諸々の関係を構築する必要がある。それらのものが起業家精神を阻害することがあってはならない。
起業家的な事業は既存の組織から分離して組織しなければならない。起業家的な事業を既存の事業に携わる組織に行わせるならば失敗は目に見えている。
成功事例:
- ドイツ ジーメンス 世界初の企業研究所 一八七二年
- アメリカ デュポン 開発部
担当トップへの直結
新事業の核となるべき人はかなり高い地位にあることが必要である。
新事業の規模、売上、市場は既存の事業の比ではないかもしれない。
しかし、トップマネジメントの一人が明日のためにその特別の仕事に責任を負わなければならない。
新事業はいわば赤ん坊であってしかも赤ん坊である期間が長い。赤ん坊を置くべきところは育児室である。
成人すなわち既存の事業や製品を担当するものには赤ん坊に割ける時間はない。
独立した事業としてスタートさせる
新規事業について誰かひとりが時間を割き、注意を払い問題を理解し意思決定
を行うなど面倒を見なければならない。
そしてこのイノベーションを担当するものはもっぱら赤ん坊の為に働きしかも見込みがない場合には中止されられる、高い位置にいなければならない。
新事業やイノベーションかかわる仕事を独立させて行う理由はもう一つある。それは負担を軽くするためである。
成人になっている事業で機能する報酬システムが赤ん坊を殺すことがある。
それでいながら特に中核的な人材への適切な報酬とならないことがある。今日、大企業で人気のある資産収益率 (ROA)や投資収益率(ROI)に連動させた報酬システムは新事業にとっては障害になる。
担当者の処遇
したがって当初に報酬は新事業を担当する直前の水準に合わせておくことが妥当である。
そして新製品や新市場あるいは新サービスの開発に成功し事業として発展させた暁には3MやJ&Jのように担当副社長や事業部長に任命し相応の地位やボーナス、あるいはストック・オプションを与えるようにすべきである。
しかし、それだけでは十分でない。
新事業を担当する人たちはいわば冒険しているので企業側も相当のことをしなければ公平とはいえない。
イノベーションを担当する人達はたとえ失敗しても元の仕事、元の報酬に戻れるようにしておくべきである。失敗をほめる必要はないが挑戦に罰を与えてはならない。
イノベーションのための組織づくり
トップマネジネントの個性や姿勢だけで起業家的な事業を生み出すことはありえない。
私が知っている企業のなかにも創業者が独自にマネジメントをしている企業があった。
しかし、それらの企業はたとえ最初にうちは成功してもやがて起業家としてのマネジネント
を行なわなくなり起業家的ではなくなってしまった。
事例:
ウォルト・ディズニー・プロダクション・・・
創業者:ウォルト・ディズニー
マクドナルド・・・創業者:レイ・クロック
二人の創業者は創造性にあふれ、強力な日常的なマネジネントを作り上げていたが起業家的な責任は一人でもちつづけた。いずれもみずからの起業家的な個性に頼り組織に起業家精神を定着させなかった。その結果、彼らが亡くなって数年後にはどちらの会社も活力を失った。
起業家精神のための人事
イノベーションと起業精神の原理と方法は誰でも学ぶことができる。
ほかの仕事で成果をあげた者は起業家としての仕事も立派にこなす。
既存の企業において起業家として優れた仕事をする人たちは通常それ以前に日常のマネジネントでも能力を示している人達である。イノベーションを行うことと既存に事業をマネジネントすることの両方を行えると見てよい。
起業家精神は個性的ではない
起業家とは個性の問題ではなく、行動、原理、方法の問題であることを最もよく示す事実としてアメリカでは大企業を辞めた後、第二の人生として起業家への道を選ぶ中高年が急増していることがあげられる。
彼らの一人がいった。『以前、私がいた売上数十億ドルのGEの一部門であっても現在私が働いている売上600万ドルの医療機器のベンチャーであっても同じだ』
『もちろん、仕事の内容ややり方は違う、だが考え方、分析の方法は同じだ、10年前に技術畑からマネジネントの仕事に移ったときより今度の転職のほうが簡単だった』
起業家精神にとってのタブー
最も重要なタブーは管理的な部門と起業的な部門を一緒にすることである。
起業的な部門を既存の管理的な部門の下においてはならない。
アメリカの大企業の多くが起業家と合弁事業を組んでいる。
成功したもにはあまりない。
起業家は官僚的、形式的、保守的な大企業の原則、ルール、文化に息を詰まらせる。
彼らのパートナーとなった大企業の人間も起業家の行うことが理解できない。
彼らは規律に欠け、粗野で夢想家に見える。
大企業が起業家として成功しているのは多くの場合自らの人材によって新しい事業を手掛けた時である。
互いに理解しあえる人たち、信頼しあえる人たち、仕事の進め方を知っている人たち、パートナーを組める人たちが仕事をしたときである。
得意分野を攻める
いかなる組織であろうと得意分野以外でイノベーションを行なおうとしても成功することはない。
イノベーションが多角化してはならない。
いかなる利点があるにせよ、多角化はイノベーションや起業家精神と相容れない。
理解していない分野で新しいものを試みるのは難しい。
既存の企業がイノベーションを行いことができるのは市場や技術について卓越した能力を
もつ分野においてのみである。
新しいものは必ず問題に直面する。
その時、事業に通暁していなければならない。
多角化は市場や技術について既存の共通性がないかぎり、うまくいかない。
たとえ、共通性があったとしても多角化はそれ自体に問題がある。
多角化に伴う問題に起業家精神が伴う問題が加わってしまったら結果は最悪である。
P.F.ドラッカー (著), 上田 惇生 (翻訳)
ドラッカー テクノロイジストの条件、イノベーションと企業家精神より
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