食品工場 加熱・冷却工程の品質管理
保存性を上げ、おいしくするのに大切な工程
製品を加熱する目的は大きく二つあります。一つは細菌を殺して保存性を上げること、二つ目はタンパク質を熱変成させて食品を食べられるようにすることです。
保存性を上げるための加熱は、加熱温度と加熱時間の掛け算になります。一方、タンパク質を変性させるための加熱は、しすぎると堅くしまった感じになり、食べたときにおいしくなくなってしまいます。
下図の斜線の部分をいかに設計通りの加熱温度×時間で加熱できるかが重要になります。殺菌のために加熱した後に、細菌が
増殖する危険な温度帯「15℃~60℃」をいかに早く通り過ぎるかが、次に大切な点になります。
この危険な温度帯を素速く通り過ぎるよう、製品を冷やす必要があります。冷たい水のシヤワーをかける、冷たいプールに製品を浸ける、真空冷却装置で冷やす等の方法があります。
下図のように加熱・冷却工程の流量を増やすなどの工夫によって、加熱温度冷却温度のばらつきを小さくすることで殺菌温度を低く抑えられます。
温度計の校正、検査が重要
加熱温度が1℃高いだけで製品は堅く仕上がってしまいます。タンパク質凝固は非常に微妙で、中心温度がたった1℃異なっても最終製品のおいしさは違ってきます。
同じく、最終製品の保存性も中心温度が1℃違ってくると異なってきます。この微妙な温度を正しく測定するために、温度計の校正が必要です。
食品工場 包装工程の品質管理
工場の中で最も衛生に注意の必要な工程
包装工程では、異物混入、表示ミス、二次汚染の3点が代表的な危害と考えられます。そのうちの二次汚染に関しては、包装工程の後に殺菌工程があるかどうかによって、包装工程の衛生管理の考え方が異なってきます。
極端な例をあげると、二次殺菌工程のない場合は包装工程で人から汚染されないように、専用の作業服、使い捨て手袋、マスクの着用が必要になります。作業環境についても、包装室の落下菌は最小限に抑え、常に陽圧の換気になっていなければいけません。
この二次汚染の防止コストを考えて、最近は包装後に再度殺菌する商品が増えてきました。表面殺菌のみを行うことで安全性を上げることができ、包装作業にかかるコストが下げられます。包装工程を衛生的な環境で行ったほうがいいか、二次殺菌を行って確実な商品を出すかについて、設計時に充分検討する必要があります。
原料を包装室に運搬
原料は、前工程において原料の中心まで加熱され、殺菌が終了しているという前提で考えます。加熱殺菌が終了し、冷却が終了してから包装工程に搬入されます。
理想的には、原料保管庫が壁代わりになり、加熱工程と包装工程が物理的に遮断されていることが必要となります。
包装工程で使用した台車、容器などの備品などの戻りも、包装室から原料保管庫を通ることなく戻せるように、設備の導線を考えておきます。
包装工程が終了すると、日付が打たれて出荷されることになります。製品の注文を受けてから製造し出荷までのリードタイムが短いときは、原料保管庫がクッションの役目を果たします。
注文が日によって大きく変動する商品は、原料保管庫で製品が保管できる日数が長ければ長いほど、工場の運営は楽になります。製品の食感、保存性を損なうことなく、原料を保管できるかが大切な点になります。
この半製品の保管を何日行ってよいかを、設計時点で明確にしておきます。そして、第三者に説明が明確にできるデータも、設計時点で作成する必要があります。
食品工場 出荷・配送時の品質管理
日付点検が可能か?
包装工程で箱詰めされた最終商品は、数量を確認して出荷を待つことになります。その商品は配送車に積まれますが、配送車に積み込むときにも数量確認を行います。
また積込み時には、外観や日付、ロット区分の確認ができるかどうかを点検します。具体的には、ロット区分されているそのひとつのロットに対して、日付、外観を確認して積み込むことが大切です。
通常、段ボール詰めを行うと日付の確認ができないため、下図のように外から開封しなくても日付、包装材料の確認ができるようにしておきます(日付確認用の帳票も必要)。
出荷判定時に日付をデジカメで撮り、そのデータを保管する方法もいいでしょう。
箱詰めされた商品の積み込みの状況を点検
配送車への積込み時には、台車、パレットなどを利用します。その際、段ボールの形状が積み込みやすい形状かどうか、積み込んだ時点で日付や品名、規格などが見やすいかどうかを確認します。規格によっては、ガムテープの色を変えて判別しやすくしている場合もあります。
積み上げた段階で冷蔵庫、冷凍庫に保管します。商品によっては製造時点では凍結してあり、保管後、解凍しながら配送する商品もあります。そういった商品は、通常行うのと同じ温度変化のテストを行います。その時点で設計した積み方を行って、段ボール箱に破損などがないかを確認します。
外装段ボールにつぶれがない場合でも、積んだ状態から商品を落下させて、中の商品に破損がないかどうかを点検します。2mくらいの高さから落下する場合は考えられるので、落下テストは不可欠です。この時点で外装段ボールのケアマークが正しいか、点検を行います。
食品販売時の品質管理
お客様の立場で確認
工場で製造した商品は、他の工場で原材料として使用するか、スーパーなどでお客様に販売されることになります。
使用する際、配送されてきた段ボールを開けることになりますが、PPバンドで結束してある場合はカッターなどが必要になります。
できれば、段ボールからテープやPPバンドを外すときに道具が要らないように工夫したいものです。テープでも、端をはがしやすいように折っておくなどの工夫が必要です。
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テープの上からカッターで切った場合、中の製品に傷が付かないか検証が必要です。「カッター禁止」と表示しても、使用されることがあるからです。
スーパーなどで陳列する際、たとえばペットボトルのデザインを二方向とも同じデザインにすると作業が楽になります。
箱の場合、縦でも横でも陳列できるようにデザインしてあるものもあります。
プリンなどの商品で積み重ねて販売する可能性のあるものは、積み重ねたときに倒れないか(蓋にちょっとしたくぼみ凹をつけること)を確認します。
段ボールの保管温度の表示は、室温保管・冷蔵保管・冷凍保管の区分が明確か、他メー力ーと比べてどうか、もこの時点で確認します。
食品の信頼性テスト|販売陳列後の商品を確認
末端で販売する状態を想定した保存テストも必要です。スーパーなどで販売する商品であれば、陳列ケースと同じ条件のもとで保存し、その賞昧期限切れ商品に官能検査、細菌検査を実施します。
下図のようなオープンケースは、保存状態としての温度管理は充分にできないタイプですが、その条件で問題がないかを確認します。
光で退色する商品もあります(ウインナーソーセージ等)。賞味期限ぎりぎりまで光が当たっていると販売できない状態になるケースもあります。
物流テストを行い販売時点の保管テストを行った商品を、お客様と同じ条件で食べてみます(プリンなどは振動するとカラメルが上まで浮いてしまう場合もある)
温度、光、振動、時間の要因が加わっても最終的に問題がないか。食品の信頼性の確認をするのも品質管理の仕事です。
製造履歴の保管
毎日印刷するシステムが必要
パソコンを利用して、生産管理部門で出荷の数字を入れると原材料の手配がアウトプットできるようにしておきます。各製造部門には、このアウトプット(計算ずみの書類)を渡すようにします。
つまり、厚焼き玉子1000本分の卵を手配してほしいと伝えるのではなく、原料の卵を300kg手配してほしいと伝えるのです。
このようにかみくだいて指示が出せるようになれば、各部門の管理が現場の管理に集中できて、品質のよい製品をつくることができます。
また、工場の作業現場から電卓をなくすことが大切です。現場で仕込みなどの数字を決めるのではなく、生産管理部門ですべての仕込み、仕入る、出荷を集中管理することが大切なのです。
さらに一歩進んだ帳票の考え方は、この生産指示書の帳票と連動することです。毎日注文の確定の数字を入れると同時に、各製造部門に製造指示書が印刷して出るようにします。
その指示書は、各工程の管理帳票を兼ねるようにし、出来高、人時生産性、歩留りなども記入できるようにします。
ラベル管理についても毎日印刷しますから、ラベル点検表に使用する賞味期限表示などの日付も自動計算で計算表示ができ、ラベルチェック用紙など簡単につくることができます。
このシステムにすると、つくりすぎ等のミスが減ります。使用原料の期限表示を印刷することで現場の判断ではなく、製造指示ということで原材料管理ができます。
帳票は監視チームが確認して事務所で保管
通常の工場の帳票は、一定枚数を印刷して現場で数字を書き、現場でファイル保管しています。
現場で白紙の帳票、記載した帳票を保管するのではなく、必ず毎日日付を更新し、情報が印刷された帳票を事務所で発行し、
現場で記載した帳票、製造履歴を監視チームが内容を確認し、そのうえで日付・工程ごとに事務所で保管します。
市場で販売している商品に問題が起きた際、各製造履歴がヒモでつながって探せるように管理します。市場の製品が日付管理だけでなくロット区分され、ロット番号の記載により容易に管理できるようになります。
食品 賞味期限の設定
食品 賞味期限の設定には官能検査も必要
賞味期限(expiration date)と消費期限(”use by” date)は微妙にニュアンスの違う言葉ですが、表わす内容はまったく同じです。どちらも加工食品の飲食可能な期限を表わしています。ただし厳密に言えば、賞味期限は5日以上日持ちする商品の期限を表わし、消費期限は5日以内の日持ちの商品に使用します。
賞味期限の設定は各工場で行います。賞昧期限を設定するときは、まず細菌検査、官能検査などを行い、その商品が食べることができなくなる日を設定し、その0.7倍程度の日数で設定するのが通常です。
この0.7倍を安全係数と言い、何か不具合があってもお客様に迷惑をかけないために設定します。
ここで大切なことは、賞味期限の設定は細菌検査だけでなく、人間の五感を含めた官能検査が必要ということです。
細菌検査の結果が問題なくても見た目で退色していたり、食感が変化していたのでは、賞味期限まで商品の品質が保証できなくなります。
安全率数値の範囲内なら自由に設定できる
官能検査、細菌検査結果から、安全に食べられる日数が10日間とします。安全係数O・7を掛けると、7日間が賞味期限になります。この7日以内なら、各工場で自由に賞昧期限を決めることができます。
ここでこの賞味期限を7日に決めた商品を、消費期限4日間として週に2回製造することとします。その週2回の製造で消費期限を変更し、毎日製造したように消費期限を設定することも可能になります。
では、設計段階で決めた7日間の賞昧期限を、製造量より注文が少なく、賞昧期限を印字していない半製品が余ったということで、昨日は7日間の賞味期限を印字し、今日は8日間の賞味期限を印字してもいいのか?、これは、設計上絶対に行ってはならないことです。
ここで大切なことは、賞味期限を設定できるのは設計部門であって、製造部門ではないということです。製造現場で自由に変更できるのは設計段階で決めた範囲であるということを徹底しなくてはいけないのです。
*食品工場の品質管理については下記の文献に更に詳細の内容が記載されています。
参考文献:
ビジュアル図解 食品工場の品質管理 河岸 宏和 (著)
生産性向上と顧客満足を実現する 食品工場の品質管理
弘中 泰雅 (著)
実践!!食品工場の品質管理 矢野 俊博 (編集)
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